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Toricago Lifehack Research

映画『君の名は。』の脇役テッシーに学ぶ、最強の突破力

映画・アニメ

※本ブログ記事は、映画『君の名は。』および小説『君の名は。』のネタバレを含みます。ご注意ください。

 映画『君の名は。』を2回も観てしまった。そして先日、小説版も読み終わった。心境としては、劇場で初めて観た時の興奮・熱量・感動のスパイクが一巡し、丁度良いレベルに収束しつつある状況だ。心も落ち着いてきた。そういう安らかな心境で、改めてこの物語を振り返ると、テッシーの役割や魅力を強く感じざるを得ない。
 テッシーがいなければ、三葉・瀧のタッグは糸守の町をとても救うことができなかった。三葉の「このままだと今夜、全員死ぬ!」という発言を、四葉もお婆ちゃんもサヤちんも町長も信じなかったが、「それ、マジなのか?」と即座に信じてくれたテッシー。間髪入れずに危機を分析し、即座に対策を練るテッシー。いったいなぜ、テッシーは三葉の彗星ネタがジョークではないことを瞬時に見抜き、その数時間後には爆破計画を作り上げることができたのか?いったい彼は何者なんだ?
 そんなテッシーのキャラクターに惹かれる自分がいる。もし、この映画の誰かと入れ替われるなら、三葉でも瀧でもなく、テッシーを選択してしまうかもしれない。ということで、今回の記事では、テッシーにスポットライトを当てて、彼から学べる最強の突破力を研究していこう。

<今回の目次>

父との関係から見えるテッシーの気持ち

 テッシーの本名は勅使河原克彦(てしがわらかつひこ)。公式サイトには、テッシーの紹介文として「三葉の同級生。オカルトマニアで機械オタク。地元で建築業を営む父に複雑な思いを抱いている。三葉のことが気になっている」と書いてある。ここに、テッシーを読み解くヒントがすべて詰まっている。
 まずは、「地元で建設業を営む父に複雑な思いを抱いている。」から分析してみよう。映画の序盤で、派手系いけてるクラスメート3人組に「町長と土建屋の子供たちも癒着しとるな。それ、親の言いつけでつるんどるの?」と嫌みを言われるところがある。このシーンから、テッシーの父は建設会社を営んでおり、また町長の政治活動を熱心にサポートしていることがわかる。さらに、テッシーの家で町長と父が飲んでいるところを見て、「腐敗の臭いがするぜ」とテッシーがぼやくところも印象的である。
 そのあと、父に「克彦、土日は仕事手伝えよ!」のようなことを言われ、気が乗らない小さい声で返事をするのだが、「返事は!」と父に怒鳴られる。テッシー自身の事情や気持ちは考慮されないまま、ただただ厳しく育てられたような人生が透けてくる。映画のクライマックスで、走り回っているテッシーを目撃した父が、「克彦!!何しとる!!」とイライラ声で言う。これから彗星が落ちる状況であるにも関わらず、父の姿を見かけるだけで「三葉、俺はここまでだ………」と脱力する。

学校生活もどこか息苦しい

 次に、学校生活に着目してみよう。三葉とサヤちんの3人といつも一緒にいる。同じクラスの派手系いけてる3人組と対照的に描かれている。瀧のように、男同士ではっちゃけるようなことも出来ない。三葉のことがちょっと気になっているが、幼い頃からずっと3人でつるんでいるので、その"仲良しバランス"を崩すわけにも行かず、三葉に対する想いは押し殺しているのかもしれない。
 三葉とサヤちんがストレートに感情を表現するタイプの女の子なので、テッシーは3人の中ではあまり自己主張をしない立場に落ち着いている。本人の(表面上の)性格としてもそれが自然な役回りのようだ。例えば3人のこんな会話を見てみよう。(小説版より引用したので、映画のセリフと少し異なる)

「サヤちん、卒業したら一緒に出よう東京に!こんな町、大人になっても学校ヒエラルキーまんま持ち越しやよ!この因襲から自由にならな!ほらテッシー、あんたも一緒にいくんやろ?」
「んん?」テッシーはぼんやりとオカルト雑誌から顔を上げる。
「あんた話聞いとった?」
「あー………俺は別に………普通にずっと、この町で暮らしてくんやと思うよ」
どはあぁぁ、と私とサヤちんは深く溜息を吐く。こんなんだから女子にもてないのだ、こいつは。

 後述するが、私の仮説は、テッシーは誰よりも東京に行きたいと思っている、ということだ。三葉やサヤちんとは比較にならないほどに。ただ、その話は一旦置いておき、ここでは、学校でもあまり自己主張をできないテッシーがいることが気になる。三葉とサヤちんが、ど田舎生活を愚痴るシーンについても見てみよう。

「こんな町、本屋もないし歯医者もないし。電車は2時間に一本やしバスは一日に2本やし、コンビニは9時に閉まるし。そのくせスナックは二軒もあるし。雇用はなし、嫁は来ないし、日照時間は短いし」

 永遠と愚痴る二人に対してテッシーがイライラしてくる。「お前らなあ!そんな愚痴言ってたって何も変わらんやろ!」と怒鳴りたかったに違いない。でも口から出たのは、「お前らなあ!そんなことよりカフェにでも寄ってかんか」という彼らの愚痴を逆手に取るギャグだった。一度目の鑑賞時には普通にギャグとして笑ってしまったが、二度目の鑑賞時には切ない気持ちになった。友達に対しても気持ちを正直に表現できず我慢する。怒りをギャグに変えてしまう。

テッシーがオカルトにハマる理由

 自分の気持ちを抑えるようにして、自分の気持ちや三葉に対する気持ちに気付かないふりをして、地味でぬぼーっとしたふりをしながら生き続けるテッシー。溜め込まれたテッシーの感情、好き嫌い、希望、欲望などの気持ちは、どこかに放出しなければならない。
 そこでオカルトにハマってしまったんだろう。休み時間は常にオカルト雑誌を読んでいるし、三葉が入れ替わった次の日には「ありゃあ絶対、狐憑きやぜ!」と。それに、こんな興味深いセリフもある。「それって、前世の記憶や!いやそれは科学的やないとオマエらはいうやろうそうやろう、ならば言い方を変えてエヴェレットの多世界解釈に基づくマルチバースに無意識が接続したという説明は………」この解釈は私の解釈と近い。詳しくはこちらの記事を読んでもらった方が良い。とにかく、オカルトへのハマりっぷりがわかるだろう。

テクノロジーに惹かれ、ど田舎脱出を夢見るテッシー

 オカルト好きなのがテッシーの特徴だが、もう一つの欠かせない要素が機械好きだと言うことである。MacBookを使いこなすシーンも印象的だ。彼の部屋が写るシーンがあるが、部屋の中には様々なガジェットがびっしりと並んでいる。この性格が、町を救うプロジェクトで威力を発揮する。「どうすれば町民全員に対して避難指示を出せるのか?」ということに対して、テッシーは次々と案を思いつく。防災無線。重畳周波数。三葉(の中の瀧)が「ていうかテッシー、なんでこんなこと知ってるの?」と質問すると、「そりゃお前、いつも寝る前に妄想しとるしな。町の破壊とか学校の転覆とか。みんなそんなもんやん?」これは小説版でのセリフ。
 テッシーは三葉に劣らず、もしかしたら三葉以上に糸守では窮屈な日々を送っている。繰り返しになるが、家庭では父親との関係に苦しみ、学校では三葉とサヤちんの愚痴を聞き、三葉に対する恋心は押し殺す。派手系いけてる三人組から嫌みも言われる。口では、「普通にずっと、この町で暮らしてくんやと思うよ」と言っているが、この第三者的な言い方からして、本心ではない気がする。やっぱり、「このままではいけない、このまま俺の人生終わってたまるか!」という強い思いを胸に秘めているに違いない。その気持ちが彼をテクノロジーに導く。防災無線、重畳周波数、爆弾などの技術に詳しいのは、そういうことが高校生の彼にとっては、なぜかわからないけど、希望のように感じたのだろう。毎晩、町の破壊を妄想しているのはちょっと危ない臭いがするが、彼の状況を考えれば納得が出来る。
 三葉が「今夜、全員死ぬ!」と言い出しても、いつもシミュレーションしていることなので、すんなり信じることが出来る。「落ちるんか?あれが、マジで?」とテッシーが三葉に聞き、「落ちる!この目で見たの!」と言う。するとテッシーは「見たってか!じゃあ、やるしかないなぁ!」と叫ぶ。この時のテッシーの興奮は最高潮に達する。エンディングの再会シーン、彼は誰時再会シーンの次にグッと来るのが、テッシーのこの爆走感である。

徐々に、自分の生き方を見つける、テッシー

 なんとか現状を打破したいという無意識レベルの思いが彼をオカルトやテクノロジーに引きつけるのだが、それは結果的に彼を彗星の悲劇から救う。勅使河原克彦(テッシー)は、映画の構成から逆算して作り上げた都合の良いキャラクターと最初は思っていたが、映画を何度も振り返ると、彼の生き様には惚れてしまう。
 三葉も東京に出たい出たいと言うが、言うだけ。妹からの現実的な提案(お酒の販売により東京行きの資金を貯める)も突っぱねる。つまり、敢えて厳しく言えば、愚痴を言うことでストレスを発散しているだけ。三葉と比べると、テッシーの「無言実行」のかっこよさに痺れる。
 きっと、このとき、彗星から一つの町を救ったことがテッシーを変えるきっかけとなったと思う。自分が毎日寝る前に妄想していたことが現実となり、ひねり出した色々なアイディアがすべて上手く行った。「俺の今までの生き方も、そんなに間違ってなかったのかな」と自信も芽生える。
 就活生・瀧がカフェで一息しているときに、後ろでテッシーがくつろいでいるシーンがある。隣町や親戚の近くで暮らしていく手段もあったはずなのに、「普通にずっと、この町で暮らしてくんやと思うよ」の言葉とは裏腹に、東京で生活しているというのは「やっぱりね!」と嬉しくなる。
 ここでサヤちんが「結婚式までには髭を剃ってよね」と言うのだが、ずっと坊主頭だった地味系テッシーが髭を生やしている、これは衝撃的だ。父親に見つかったら「なんてだらしない!しっかりせえ!」と怒鳴られるのではないか。いや、でも、もう以前のテッシーではない。少しずつ、自分らしく生き始めたテッシーがそこにはいる。

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